■目次 1. 離婚協議書とは 2. 離婚協議書に記載すべき内容 3. 離婚協議書を作成する流れ 4. 離婚協議書...
財産分与 預金・貯金
1. 財産分与の対象となる預金・貯金
2. 財産分与の対象とならない預貯金(特有財産)
3. 預貯金の財産分与における注意点
4. 預貯金の財産分与をより確実に受け取るための方法
5. 預貯金が隠されていた場合の対処法
6. 当事務所がサポートできること
1 財産分与の対象となる預金・貯金
婚姻開始後別居時までに形成された共有財産と実質的共有財産が、財産分与の対象となります。
共有財産とは、例えば、婚姻期間中に夫婦が取得し、名義が夫婦共有名義である財産のことで、名実ともに夫婦のモノといえる財産です。
一方、実質的共有財産とは、財産の名義は夫名義または妻名義であるけれども、実際には、婚姻期間中に夫婦が協力して取得した財産のことをいいます。そして、婚姻期間中に取得した財産については、原則として、財産分与の対象となる財産であるとの事実上の推定が働きます。
このように、婚姻開始から別居までに夫婦が取得した預貯金は、特有財産にあたらない限りは、名義にかかわらず夫婦共有財産として、財産分与の対象となるのが原則です。
2 財産分与の対象とならない預貯金(特有財産)
例えば、夫名義の預金口座の預金について考えます。
夫が、婚姻前から持っていた預金であれば、かかる預金は実質的共有財産ではなく、夫の特有財産となり、財産分与の対象になりません。また、婚姻中であっても、夫が、自分の両親から相続した預金や贈与を受けた預金も夫の特有財産となり、財産分与の対象とはなりません。これら特有財産は、夫婦の協力によって取得した財産とは評価できませんから、財産分与の対象とならないことはむしろ当然と言えます。
一方、婚姻期間中(別居時まで)に、給与として夫名義の預金口座に入金された預金は実質的共有財産となり、財産分与の対象となります。夫が、この時期の預金は自分の特有財産であり(これを特有性といいます)、財産分与の対象とならないと主張するときは、婚姻前から持っていた預金であるとか、親から相続した預金であるといった特有性に関する事実を、夫側が立証しなければなりません。
例えば、夫の給与口座に婚姻時に200万円入っていたとして、婚姻中も夫の給与が振り込まれ続け、別居時にこれが500万円に増えていたとします。調停では、預金通帳の履歴などを確認することで、通常は婚姻時の200万円は夫の特有財産であって、「別居時500万円-婚姻時200万円=300万円」を財産分与の対象として話を進めることになります。
しかしながら、調停では解決できず、離婚訴訟に進んだ場合には、婚姻生活が長く続くことによって、特有性が失われたと判断される場合もあります。夫名義の預金口座に共有財産である給与が振り込まれ続け、特有財産と共有財産が入り混じる状態で管理される期間が長く続くことで、共有財産と特有財産が明確に区別できないと判断されるからです(別居時の500万円の中に婚姻時の200万円が残っているか明確でないということです。)。
特有財産であることを明確にしたい場合には、定期預金などに振替え、共有財産が振り込まれる給与口座とは別に管理をしておくべきです。
3 預貯金の財産分与における注意点
(1)夫婦の一方が別居後に預金を使ってしまった場合
離婚に先立ち、夫婦の一方が同居していた自宅を出て別居をすることはよくあります。この時、別居する配偶者が他方名義の通帳やキャッシュカードを持ち出して、預金を消費してしまったとします。この場合、財産分与の対象となる預金額はいくらになるのでしょうか?
例えば、別居時、夫名義の預金通帳の残高が100万円(100万円は共有財産だとします)だったのが、妻が家を出る際、夫名義の通帳を持ち出して使ってしまい、離婚時には残高が50万円となっていた場合を考えます。
この点、通貨に関しては原則として価値の変動は無いものと考えられますので、別居時の預金額が、そのまま分与財産の評価額となります。そのため、別居時の預金額である100万円が分与財産であるとされるので、夫は妻に対し、寄与分(通常は2分の1)である50万円の支払いを請求することができます。
(2)子ども名義の預金
夫婦に子どもが生まれると、子ども名義で預金口座を作成し、将来の教育資金等を子ども名義の口座に貯金することがあります。この子ども名義の預金口座の預金は、財産分与の対象になるのでしょうか?
ここに、同預金が子どもの固有の財産であれば、財産分与の対象にはなりません。例えば、子どもがもらったお小遣いやお年玉を貯金している預金口座などです。子どもの財産であって夫婦の財産ではない以上当然と言えます。
これに対し、夫婦が収入の中から預金をしてその通帳等の管理をしている場合、夫婦の共有財産が子どもの名義になっているだけと評価できるので財産分与の対象となると考えられます。
(3)相手が相手名義の預貯金口座を開示してくれない場合
相手が相手名義の預金口座を任意に開示してくれない場面に遭遇することがあります。この場合、詳しくは後述しますが、弁護士会照会という手続きを利用することもできますし、調停・裁判の段階では、文書送付嘱託や調査嘱託という方法も検討できます。
支店名まで分かれば(ゆうちょ銀行であれば支店名は不要です)、取引履歴が開示されることになりますので、別居を考えておられる方は、日ごろから相手名義の預金口座の存在には注意を払っておく必要があります。
4 預貯金の財産分与をより確実に受け取るための方法
(1)一括払いを離婚の条件とする
最も確実な方法は、財産分与の一括支払いを、離婚の条件とすることです。
つまり、協議離婚の場合には、先に財産分与の金額を一括で支払ってもらってから、離婚届を提出します。また、調停離婚の場合には、相手に調停成立の期日に財産分与の金額を持参してもらい、調停成立の席上でこれを一括で支払ってもらい、これを確認した後に調停を成立させます。
預貯金であれば、離婚届の提出及び調停成立の前に、預貯金を解約し現金化してもらい財産分与の一括支払いを離婚の条件とすることで、ほぼ間違いなく(相手が持ち逃げでもしない限り)財産分与を受け取ることができます。
(2)離婚後に支払期日を設定した場合
もっとも、離婚後でないとまとまった金額を用意できない場合や、離婚前に一括で支払うことができない場合もあり得ます。このような場合、離婚後に財産分与の支払期日が到来することになります。
このような場合は、離婚届の提出前に、少なくとも強制執行認諾文言付きの公正証書を作成してもらいましょう。公正証書に、例えば「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した」との一文(これを強制執行認諾文言といいます。)を入れてもらうことで、相手が支払期日に財産分与の支払いを怠った場合には、裁判手続を経ずに直ちに給料などの相手の財産に対して強制執行することができるようになります。また、離婚調停を提起し、家庭裁判所で調停調書を作ってもらった場合にも、同じく相手の財産に直ちに強制執行ができるようになります。
これらの手立てをとったとしても、それだけで必ず財産分与の支払いを実現できるわけではありませんが、離婚後に支払期日を設定する場合には、少なくとも強制執行認諾文言付公正証書もしくは調停調書の作成はした方が良いと言えます。確実に受け取りたい場合には、やはり⑴のとおり、一括払いを離婚の条件とすることです。
5 預貯金が隠されていた場合の対処法
(1)まずは証拠を集めた上で、相手に財産の開示を求める
別居した後では、一緒に住まなくなる以上、相手の財産を調べることは難しいです。また、離婚を切り出した後は、相手も警戒する可能性が高まります。したがって、可能な限り、別居する前や離婚を切り出す前に相手の財産状況を調べておくべきです。
相手の財産を調べる際には、預金通帳、給与明細や確定申告書、証券口座の取引明細等を集め、写真できればコピーをとっておきましょう。預金通帳からは、他の預金口座への振替えや保険料の引落などの情報が記載されている可能性がありますし、確定申告書や給与明細からは、保有している預貯金口座が判明するかもしれませんし、給与明細からは社内預金や会社持ち株などもわかるかもしれません。また、金融機関、保険会社、証券会社などからの郵送物をチェックしてもいいかもしれません。
このように、相手の財産を十分に調べた上で、まずは、相手に財産の開示を求めます。相手が開示を渋る場合には、調べた情報を示すことで、相手も観念して隠していた財産の開示に応じる場合もあります。
また、相手名義の預貯金に関して、支店までわかっている場合には、弁護士が弁護士会を通じて金融機関に対して、相手の口座の有無や金額について照会をかけることができます。これを「弁護士会照会」とか「23条照会」といいます。
(2)裁判所を通じて財産開示を求める
⑴のような手を尽くしても、相手が任意に財産開示に応じない場合もあり得ます。このような場合は、まずは家庭裁判所に調停を申し立てることになります。離婚時は「離婚調停」を、離婚後は「財産分与請求調停」になります。
いずれの調停も、家庭裁判所の調停委員2名を介して、相手と話し合いを行ないます。そして、まずは、調停委員を通じて、相手に財産開示を求めることで、相手が観念して自分名義の財産を開示する場合もあります。調停委員に強く説得してもらうためにも、相手名義の財産について事前に情報を入手しておく必要があります。
調停委員の説得にもかかわらず、なお相手が財産を開示しない場合には、相手の意向とは別に、裁判所を介して、直接金融機関等に問い合わせをするという方法があります。文書送付嘱託や調査嘱託といった手続きです。もっとも、離婚調停では、相手の意向を無視して預貯金口座等の財産開示を実現しても、離婚について話し合いで解決する余地がなくなってしまうという理由で、調停段階で、これらの手続きを裁判所がとってくれることはほとんどありません。離婚前にこれらの手続きを申し立てたいと考えた場合には、離婚調停は不成立で終了してもらい、離婚訴訟を提起し、離婚訴訟の中でこれらの手続きの申立てをしていくことになります。
(3)判明した預貯金を確保する
上記の方法によって、せっかく相手の預貯金等の財産が判明したとしても、離婚までに時間がかかり、この間に相手が預貯金を使い果たしてしまい、調停や審判等でいくら有利な内容を勝ち取れても、絵に描いた餅になり、財産分与の金額を回収できなくなってしまう場合があります。
これを防止する手段として、「保全処分」という手段があります。
相手が相手名義の預貯金を使い果たしてしまう危険が高い場合には、保全処分として、預貯金の仮差押えの手続きを取ることが考えられます。しかしながら、保全処分については、保全の必要性(相手が預貯金を使い果たしてしまう危険が高いこと、預貯金以外に財産分与を回収できないこと等の事情)や保証金の納付も必要となりますので、残念ながらハードルは低くないのが現状です。
6 当事務所がサポートできること
財産分与においては、実務ではほぼ夫婦2分の1ずつ分配するという「2分の1ルール」が定着しています。そのため、財産分与の金額を増やすには、対象となる財産をどれだけ把握できるか、この一点に尽きると言っても過言ではありません。
そして、財産分与の対象となる財産の中でも預貯金は、現金に次いで流動性が高いことから、すべてを的確に調査することが困難な場合があります。裁判所を介して、文書送付嘱託や調査嘱託といった手続きを取ろうにも、そもそもが一般の方では難しく、また最低限必要な情報を事前に把握しておかなければなりません。
また、預貯金の内容をすべて把握できたとしても、それがすべて財産分与の対象となるか否か、難しい判断が必要な場合もあります。
そのため、財産分与については、専門家である弁護士、特に離婚問題を頻繁に扱い経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。
当事務所では、立ち上げ時から離婚問題の中でも特に財産分与の分野に注力してきました。他の弁護士が経験した案件なども所内で情報共有し、所内での勉強会なども実施することで各弁護士がノウハウを蓄積しています。
財産分与の成功には初動が大事です。財産分与でお困りの方は、いち早くお気軽にご相談ください。